織り技法の種類からいうと、「平織」の仲間です。
平織(ひらおり)とは、経(たて)糸と緯(よこ)糸を交互に浮き沈みさせて織る、
最も単純な織物組織です。できあがった模様は左右対称になります。
丈夫で摩擦に強く、織り方も簡単なため、広く応用されています。
平織(拡大写真)
中でも経糸と緯糸を2本もしくは数本ずつ引き揃えて(ひとかたまりの糸として)
織ったものを魚子織(斜子織、ななこ、basketweave)と言います。
一般的な斜子織と広瀬斜子織は少し違っています。
経糸は細い糸を2本引き揃えて使い、緯糸は撚り(より)の無い糸で、緯糸より太い
糸を1本使って織っているように見えます。
下写真2枚・広瀬斜子織
拡大写真を見ると経糸の2本が少し離れて見えますが、それは「歯割筬通し」をしているためと考えられます。(下写真 赤丸部分)
<歯割筬通しとは>
同じ動きをする2本の経糸が、1本ずつ別の筬目を通り、2本の間に筬歯があるよう
に通すやり方。
同じ色の糸は同じ動き(上下運動)をします。広瀬斜子織の歯割筬通しでは、同じ色の2本の経糸の間に筬歯があります。
当地域(現在の狭山市)では、蚕を飼い絹糸を引いて絹織物を生産していました。
●斜子織は「白ななこ」と呼ばれ、白生地のまま売られていました。 当時の斜子織の生産農家は入間川沿いに多くありました。生糸を精練して入間川から引いた用水で洗うと、真っ白で光沢がある糸ができたそうです。
●緯(よこ)糸には撚り(より)をかけていない太い糸を使い、それを細い経(たて)糸で抑えるように織っているので、緯糸がふっくらと盛り上がったように見えます。
それが魚卵のように見えますし(魚子織)、斜めに並んで畝のように見えます(斜子織)。
●平織りなので経糸と緯糸の交差する点が多くあります。そのため張りがあり、耐久性が高く、摩擦に強い生地に仕上がります。
しかし一方で交差する点が多い織物は、隣の糸から離れようとする力が働くため隙間が 多くなりがちですが、広瀬斜子織織りでは経糸の密度を高め、緯糸の打ち込みを
強くすることで、しっかりした布にしていたようです。織りあがった布の手触りは、ふっくらして、光沢があり、しなやかで、軽く、腰があるなどの言葉が当てはまる絹織物になっていました。
当時は男物の正装(黒紋付)、女性用では帯にも使われていたとのことです。 この地方の羽根つき唄に次のような一節があります。
「いつきてみても ななこの帯を やのじ(也の字)にしめて」
残念ながら斜子織の帯が現存するかは、確認できていません。